【イベントレポート】令和7年度 CHEST成果報告会を開催しました
- 公開日
- 2026/03/26
3月17日(火)、令和7年度 CHEST 実証支援事業・アクセラレータープログラム成果報告会をmark MEIZAN(マークメイザン)にて開催しました。
今年度実施した実証支援事業およびアクセラレータープログラム事業の成果を発表する場として、採択事業者によるプレゼンテーションと、スタートアップ支援に関わるゲストを迎えたトークセッションを行いました。当日は、それぞれの事業の背景や取り組み、支援を通して得られた成果が共有されました。

実証支援事業 成果発表
令和7年度の実証支援事業では、2社が採択されました。本報告会では、それぞれの事業の背景や、実証を通して得られた成果について発表が行われました。
株式会社Alteonus
代表取締役 平間 雅博 氏
(技術顧問:高谷 浩史 氏)
株式会社Alteonusの代表取締役、平間雅博氏は、口腔ケアとスイーツを組み合わせた製品開発について発表しました。
同社が取り組んでいるのは、歯磨きが難しい人のための「歯磨きスイーツ」の開発です。平間氏は、歯磨きが難しい人として乳幼児や高齢者、障害のある方などを挙げました。また、災害時や宇宙空間など水が使えない環境では口腔ケアが難しくなることもあると説明しました。
口腔ケアが十分に行われない場合、誤嚥性肺炎などの健康リスクにつながる可能性があります。そこで同社では、歯磨きが難しい人でも口腔ケアを行える方法として、口腔ケア機能を持つスイーツの開発に取り組んでいます。
製品はキャラメル状で、天然由来の糖を使用し、虫歯菌が利用できない希少糖を採用しています。甘さを持ちながらもプラークの生成を抑制する特徴があると説明しました。
実証では約250〜300名を対象に試食やアンケートを実施しました。その結果、約80%の参加者が口腔ケア効果を実感したと回答し、プラーク生成抑制の効果や、誤嚥・気道閉塞のリスクが低い粘度であることも確認されたと報告しました。
また、食品として摂取する形式であるため継続性についても確認したところ、食べ忘れ率は約2.8%だったと紹介しました。
平間氏は小児歯科医としての経験から、心臓病などを抱える子どもたちの課題にも触れ、口腔ケアの重要性について説明しました。現在、同社では施設向けのBtoB展開を検討しているほか、JETROやJICAと連携した海外展開にも取り組んでいると紹介しました。

LINK SPIRITS株式会社
代表取締役 冨永 咲 氏
LINK SPIRITS株式会社の代表取締役、冨永咲氏は、焼酎文化の新しい市場創造をテーマに事業を展開していると説明しました。
同社は2022年に鹿児島で設立され、現在4期目の会社です。焼酎蔵と連携し、商品の開発から販売、輸出までを行う事業を展開しています。現在は4つの蔵と連携しており、今後さらに2つの蔵との連携も予定されています。
同社のミッションは、「文化としての焼酎を継承するため、嗜好品としての焼酎の市場を創造すること」です。
冨永氏は、鹿児島では焼酎の売上が年々減少し、焼酎蔵の数も減少している状況にあると説明しました。そのような背景の中で、同社ではエントリーからハイエンドまで3つの価格帯の商品を展開しています。
今回の実証では、看板商品である「NANAIRO-七色-」という焼酎を中心に取り組みました。この商品は鹿児島市内の企業と共同開発したもので、発売から約3年が経過しています。現在はECや酒販店、飲食店への卸販売を行っており、海外では中国・タイ・シンガポールの3カ国に輸出しています。
今回の実証では、リアル店舗を持たないことによる顧客接点の不足、女性へのアプローチ、観光・インバウンドへの対応といった課題への取り組みを行いました。
その一環として、アルコール度数3%のスパークリング焼酎「NANAIRO sparkling」を開発しました。この商品は、キャバクラやスナックなどナイト業態の店舗を訪問する中で、低アルコールで飲みやすい商品へのニーズを踏まえて開発されたものです。
実証期間中には飲食店の開拓も進め、既存商品「NANAIRO-七色-」については17店舗への導入が進み、販売本数は約300本となったと報告しました。

トークセッション
「その時”やったこと”から、事業成長を考える」
続いて、スタートアップの事業成長をテーマとしたトークセッションが行われました。
ベータ・ベンチャーキャピタル株式会社 代表取締役パートナー 林 龍平 氏
株式会社オリッジ 代表取締役 地島 昇平 氏
ファーマーズサポート株式会社 代表取締役 春日 良一 氏

起業のきっかけと事業を始めた背景
トークセッションではまず、それぞれが現在の事業を始めたきっかけについて共有されました。
株式会社オリッジの地島昇平氏は、もともと神奈川で会社を設立し、飲食コンサルティングなどに取り組んでいたことを紹介しました。その後、調味料事業を始めるにあたり、父から「鹿児島に帰ってきた方が人件費や工場コストを抑えられるのではないか」と助言を受け、鹿児島に戻って出汁づくりを始めたと話しました。
また、最初は一般的な出汁商品を展開していたものの、競争の激しい売り場では差別化が難しいと感じたことから、離乳食向け商品へと事業の方向性を変えた経緯についても紹介しました。社内では反対もあったものの、自らバイヤーに商品を送り、展示会で食品卸の担当者と出会ったことで、赤ちゃん本舗、西松屋、トイザらスといった販路につながったと振り返りました。
ファーマーズサポート株式会社の春日良一氏は、もともとNTTグループで働いていた中で、東日本大震災をきっかけに「社会課題に対して自分にできること」を改めて考えるようになったと話しました。その後、経済産業省への出向や大学発ベンチャーへの参画などを経て、地方の課題と向き合う中で、鹿児島の畜産分野に可能性を感じたことが現在の事業につながっていると説明しました。
林龍平氏は、福岡を拠点とするベンチャーキャピタルとしての立場から、自身も地域に根ざして仕事をしてきたことを紹介しました。その上で、地方で挑戦する起業家には、地域の産業や課題に向き合いながら事業を組み立てている人が多いと述べました。

事業成長における意思決定と外部とのつながり
議論の中では、事業を進める過程での「判断」や「選択」についても意見が交わされました。
地島氏は、離乳食市場への参入や関東での営業所開設など、大きな判断をするたびに社内外から反対意見もあったと紹介しました。一方で、その反対意見を一つずつ検討していくことで、リスクの整理や事業の磨き込みにつながったと話しました。
春日氏は、現在の事業に至るまで複数のプランを同時に検討しながら進めてきたことに触れ、技術的な挑戦を積み重ねる中で今の事業が形になっていったと説明しました。
さらに、事業成長においては自社だけでなく、外部とのつながりも重要な要素として語られました。春日氏は、技術開発の初期段階で大学研究者やハードウェア企業との出会いがあったことで、事業が加速度的に進んだと紹介しました。
地島氏も、取引先から規格や商品開発について多くを学んできたと述べ、釣りなどのプライベートな場での相談が事業のヒントになることも多いと話しました。
林氏は、地方においては起業家同士のつながりが特に重要だとし、異なる業種であっても、挑戦している者同士が交流することで大きな刺激や学びが生まれると述べました。こうした人と人とのつながりが、地域におけるスタートアップエコシステムを支える「社会関係資本」になっていくという考えも共有されました。
トークセッション全体を通して、地方で事業をつくる上では、地域の課題や資源に向き合うことに加え、挑戦を支える仲間や支援者との出会いが重要であることが語られました。


アクセラレータープログラム成果発表
続いて、スタートアップの事業成長を支援するアクセラレータープログラムの成果発表が行われました。本年度採択された3社が登壇し、プログラム期間中の取り組みや得られた成果、支援を通して見えてきた事業の変化について紹介しました。
株式会社インフォメーション住宅産業
代表取締役 上水流 輝 氏
株式会社インフォメーション住宅産業の上水流輝氏は、「ハイスマ!」という出張洗車サービスについて発表しました。
上水流氏は、駐車場や庭の外構工事を行う会社を父から引き継ぎ、2018年から経営しています。
「ハイスマ!」は、自宅やオフィスに訪問して手洗いで車を洗う出張洗車サービスで、2025年1月から開始しました。サービス開始から約1年2か月が経過し、アクセラレータープログラムでは約6か月間の伴走支援を受けました。
採択前は、リピーターはいるものの売上が安定しないことや、ターゲットが広すぎて顧客像が曖昧であること、営業モデルが属人的であること、洗車の後につながるアップセル・クロスセルの導線が弱いことが課題だったと説明しました。
支援期間中は、メンタリングを通して課題を整理し、アッパー層・経営者層へのターゲット再設計、サブスク導入、コミュニティ営業、イベント出展といった施策に取り組みました。
その結果、期間中の売上は約80万円、洗車台数は80台、顧客数は約70組、サブスク契約は10件となりました。上水流氏は、洗車は単なる洗車サービスではなく、経営者や富裕層の「時間」を代行するビジネスであり、信頼関係を築く入り口でもあると整理できたことが大きな変化だったと説明しました。

株式会社ZIFISH
取締役COO 中村 元 氏
株式会社ZIFISHの取締役COO、中村元氏は、AIやIT技術を活用して水産業の課題解決を目指す事業について発表しました。
同社は、代表の江幡氏と中村氏が出会ったことをきっかけに設立された会社で、その出会いの場所が今回の会場でもあるmark MEIZANで実施されたビジネスプランコンテストだったと紹介しました。
日本では寿司や刺身など魚料理が広く親しまれており、水産物は日本の食文化を支える重要な存在です。一方で、水産業の現場では労働力不足が大きな課題となっています。鹿児島県のある漁協では、3名の職員で現場業務を回していると紹介しました。
漁協では、漁師が水揚げした魚を計量し、紙の伝票に記録し、その後のセリや入札を経て、魚の種類や重量、購入者などの情報をすべて手作業で記録する作業が行われています。これらの作業は長時間に及び、その後も保険業務や船舶管理などの業務が続くため、負担が大きい状況にあります。
同社ではこうした課題に対して、AIやITを活用した技術で水産業の効率化を目指しています。アクセラレータープログラムでは、事業構想や市場整理、資金調達、採用、組織体制の整備などに取り組みました。
支援を通して、製品開発や導入先の拡大に加え、資金調達や役員・エンジニアの体制強化も進み、事業を本格的に加速させる基盤が整ったと説明しました。

root.
代表 中村 将 氏
root.代表の中村将氏は、観葉植物事業について発表しました。
同社は「Made in Ibusuki Plants」を掲げ、指宿産の観葉植物の魅力を発信する事業を展開しています。
現在は店舗を持たず、移動販売、観葉植物のコーディネート、ワークショップなどの形で事業を展開しています。また、地元の生産者と連携しながら、指宿産観葉植物のブランド価値を高める取り組みも進めています。
中村氏は、もともと建築業界で働いていましたが、妻が観葉植物の生産に関わる仕事を始めたことをきっかけに、地元産業としての観葉植物に関心を持ったと説明しました。指宿には約60戸の観葉植物農家があり、市場規模は約10億円にのぼると紹介しました。また、東京のバイヤーが指宿まで買い付けに来るなど、全国的にも注目されている産地であることを説明しました。
採択前は、事業の方向性や規模感が定まらず、精神面でも不安定な状態が続いていたと振り返りました。一方で、支援を通してスモールスタートの考え方や、在庫を持たずに地域の生産者と連携する形で事業を進める方法を整理していきました。
その結果、マルシェ出店やコーディネート事業、ワークショップなどを通して事業の形が見え始め、現在は指宿発の観葉植物専門店の候補地も見つかり、実店舗開設に向けた段階に入っていると紹介しました。
観葉植物をきっかけに指宿を訪れる人が増え、地域と人がつながる新しい循環を生み出したいと述べました。

交流会の様子



成果報告会の終了後、トークセッションにも登壇したベータ・ベンチャーキャピタル株式会社 代表取締役パートナーの林龍平氏に、今回のイベントの感想を伺いました。
林氏は、今回がCHESTへの初参加だったといいます。
「今日、実は私、初めてCHESTに参加させてもらったんですけれども、ピッチももちろん良かったんですけれども、その空気感というか、会場もびっしり、起業家の方とか支援者の方が集まっていて、緊張感はありながらもアットホームな雰囲気があって、壇上に上がっている起業家の皆さんを応援しているというところがすごく印象的でした。」
林氏は、これまで全国のビジネスプランコンテストやアクセラレーションプログラムにも関わってきた経験から、鹿児島のコミュニティの特徴についても触れました。
「いろんな県でこういうビジネスプランコンテストやアクセラレーションに参加させていただくんですけれども、この温かさというか、いろんな業種の方がいて、それぞれがそれぞれを応援しながらやっているところの連帯感というか、そういったところが素晴らしかったなと思いました。」

また、これから起業を考えている人や、スタートアップとして新しい一歩を踏み出そうとしている人へのメッセージについても話しました。
「ぜひ、いろんな人の話を聞いてもらいたいなと思います。同じように起業を志している仲間の皆さんの話もそうですし、僕たちベンチャーキャピタルの話もそうです。」
ベンチャーキャピタルは投資判断を行う存在として見られることも多いですが、それだけではないと林氏は説明します。
「投資するかしないかという話だけではなくて、投資家のネットワークだったり、起業家のネットワークだったり、そこから得た知見みたいなものもあります。」
「VCはちょっと怖い人かなと思わずに、気軽に相談していただけるとありがたいなと思います。」
そして今回のようなイベントについても、起業家と支援者が出会う機会として意義があると話しました。
「そういう意味では、こういうイベントに我々も参加させてもらっていることには、すごくありがたいなと思っていますし、意義があるんじゃないかなと思っています。」
まとめ
多様な挑戦が交わる成果報告会
今回の成果報告会では、実証支援事業・アクセラレータープログラム事業の採択者が、それぞれの事業内容や背景、支援を通して得られた成果を発表しました。
口腔ケアや焼酎文化、水産業、観葉植物など、扱うテーマはそれぞれ異なりますが、地域の課題や資源に向き合いながら新しい価値を生み出そうとする取り組みが紹介されました。
鹿児島県では今後も、CHESTを通じてスタートアップの挑戦を後押しし、県内における新たな事業創出と成長支援に取り組んでいきます。
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